箱根 彫刻の森美術館

常設作品紹介

メダルド・ロッソ


目を閉じて忘れられない人を思いだす時のような朧げな感覚、瞬間を切り取る写真を見ているような錯覚、ロッソ作品の姿や表情にはそんな印象を受けます。石膏にワックスを厚くまとった作品を見ると、その顔や身体は淡い光のベールに包まれたような柔らかさを感じます。
「すべては光の戯れである」という言葉を残したロッソの革新的「絵画のような彫刻」は、その後のピカソ、ボッチオーニ、ブランクーシらの彫刻に大きな影響を与えたとも言われています。


ロッソは光が彫刻に及ぼす効果を考えて、印象主義的手法を彫刻に取り入れ、大胆に省略をきかせたスケッチ風の描写を用いました。
「自然には境界がないのだから、芸術作品にも境界があってはならない。私が肖像彫刻を作るとき、それを顔の輪郭線だけに限ってしまうわけにはいかない。その顔は身体に続いているものだし、さらに、その顔に及ぼす周囲の中に置かれている。私はその環境を無視することができない。」と書き残しています。
そして、市井に生きる老人や子供の見せる一瞬の表情や姿にその時の光や影の具合、感じた空気を描写しました。
トリノに生まれたロッソは、ミラノ・ブレラ美術学院で短期間学んだ後、パリに出てジュール・ダルー(1838-1902)のアトリエに入り、ロダンとも知り合っています。制作した作品の数は少なく、現存する彫刻は40作に満たないものとなっています。当館には、「病める子供(1889)」、「病院の病める男(1889)」、「世話やきの老女(1883)」、「ガヴローシュ(1882-83)」など、ロッソ作品14点を所蔵しています。

「病院の病める男」は、パリ時代に体を壊してひと月ほど入院した際の観察をもとに制作されたものです。頭を落として眠っているローブ姿の老人と肘掛け椅子、そして床が密な素描のように小さな塊の中に現れます。男と彼を包む静寂な空気がひとつに溶け合ったような作品です。


「病院の病める男」( 1889)

「世話やきの老女」(1883)